校正結果の信頼性向上への取り組み
 測定器類の校正では、なにより校正結果の信頼性が重要な要素です。この一環として、当社、校正部門では、早くより、ラボ運営の国際基準であるISO/IEC 17025に基づいた品質システムを導入しています。また、その運営の適切さに、より客観性を持たせる為、認定機関(Accreditation Body)からの認定(Accreditation)も取得しています。

 ISO/IEC 17025のSection 5.9(校正結果の品質保証)では、校正の有効性の監視の為の品質管理手順をもつこと、および結果のデータは傾向が検出できるような方法で記録することを定めています。

 これら、ISO/IEC 17025の要求事項も鑑み、且つ、皆様方にご提供している校正結果の信頼性を維持および向上する為、測定器類の定期校正とは別に、幾つかの品質監視プログラム(QoP)を開発し運営しています。そのうち、ここでは2つのQoPについてご紹介します。

■標準物質による校正用標準器の定期的な性能検証

 高周波分野において「標準物質」という言葉は似つかわしくありませんが、具体的には、その特性が既知で、且つ、国家標準にトレーサブルな参照標準(Reference Standard)を指します。この参照標準はその用途から、安定的で高精度な特性が要求されます。例えば、ネットワークアナライザの測定確度が維持されていることを検証する為に使用するベリフィケーション・キットもその一つとして挙げられます。

 当社で所有するベリフィケーション・キットは、20dBと50dBの2つの高精度アッテネータ、インピーダンス基準である50Ωエアーライン、25Ωミスマッチ・エアーラインから構成されています。校正サービスに使用しているネットワークアナライザを使用して、これら参照標準を測定し、その結果を比較することで、当該ネットワークアナライザの測定確度が維持されていることを定期的に確認しています。


10cm 50Ω airline
center conductor d=3.04±0.0025mm
L=+0.00010/-0.0004mm
US NIST traceable
20dB and 50dB
reference attenuators
50Ω airline &
25Ω mismatch airline

Example of VNA perormance verification

 また、校正サービスに使用する他の主要な測定器群についても、可能な限り参照標準あるいは擬似基準(Artifact)を定め、定期的な繰り返し測定を通じて、品質の監視を行っています。

■技能試験と試験所間比較

 校正の有効性の為の監視プログラムの一つとして、技能試験(Proficiency Test)があります。試験所内で行う場合もあれば、参加ラボを募って広く行われる場合もあります。認定機関が行う技能試験は、ISO/IEC Guide 43-1, 43-2で定められています。

 この技能試験を実施する一つの手段として、試験所間比較(Interlaboratory Comparison)があります。国内の高周波関係の特に民間レベルの校正分野においては、活発な技能試験は行われていないのが現状です。

 校正分野での技能試験の結果例(仮想イメージ)を示します。図中のREFはこのプログラムの基準となるラボを意味し、一般には国立研究所あるいは同等の不確かさを持つ機関がそれを担います。LAB1〜LAB6は技能試験に参加した校正ラボを表しています。それぞれのラボで測定された値を●印で示し、それぞれのラボの持つ測定の不確かさの大きさ(±値)をバーで表しています。

 プログラムに参加した校正ラボの不確かさの値を加味した結果が、REFラボの不確かさ範囲内(図中では緑のバンド内)であれば、そのラボの結果はAccceptableとして扱われます。図ではLAB1/2/3/5/6がそれに該当します。LAB4の不確かさを含む結果は緑のバンド外にありますので、このラボの結果はUnacceptableとなり、原因究明などの是正要求に繋がります。この場合、一般には、LAB4が明示する不確かさの値は実際のそれより小さすぎる可能性が高く、不確かさの値を再評価した上で再度測定するなどの方策が要求されるでしょう。

技能試験の結果例(仮想イメージ)

 以上、ご説明したような広く参加ラボを募っての技能試験の運営は、一般には認定機関が行うか、あるいは認定機関が指名した供給者(プロバイダ)が行いますが、該当するプログラムが存在しない以上、当社だけでは解決できない問題です。

 この現状を補う為、当社では信頼できる外部の校正ラボと協力して、同一の被校正品を巡回校正することで、お互いの品質を検証する試験所間比較を実施しています。比較結果は現在の所、双方の測定の不確かさの範囲内であり、非常に良く一致しています。
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