校正雑学 - 擬似電源回路網(AMN)の
電圧分圧比と挿入損失の違い
 電子・電気機器の伝導妨害波測定において、トランスデューザとして擬似電源回路網(AMN)が使用されま。米国ではインピーダンス安定化回路網(LISN)と呼ばれています。ここではAMNという言葉で扱うことにします。このAMNの具備すべき特性については、国際規格ではCISPR 16-1-2にて、また米国ではANSI C63.4にて、それぞれ規定されています。それ以外にも、自動車関連規格であるCISPR 25, ISO 7637-2など、様々な規定が存在します。

 測定に先立ち、当該規格に基づいて、AMNの諸特性を確認(校正)しておく必要があります。その内の一つに、電圧分圧比という特性があります。これは、供試装置から漏洩した妨害波がAMN内部の回路を通して、AMNのレシーバポートであるRF出力に現れる迄の高周波損失分を示す量です。従って、実際の測定においては、受信機により測定した供試装置の妨害波電圧にこの損失分を加算し、本来の妨害波レベルを決定し、当該限度値と比較することになります。

 また、規格によっては、この電圧分圧比(Voltage Division Factor)のことを挿入損失(Insertion Loss)という名称で規定している場合があります。この2つの言葉は、現在においても、混同されて扱われています。ことが名称の違いだけであれば、何の問題も生じませんが、仮にこの両者の測定法が異なる場合、その結果も変わってくる可能性があるということです。

 一般に、挿入損失の測定という場合、供試装置が挿入されていない場合を基準とし、この線路中に供試装置が挿入された場合の損失を意味します。供試装置をAMNとした場合の例を図1に示します。これは極めてシンプルな測定です。規格中で挿入損失という言葉で扱われているからといって、その測定法は図1であるということを申している訳ではありませんので注意して下さい。あくまで一般的な解釈をすると図1の測定法になるだろうということです。

 一方、CISPR 16-1-2では、挿入損失ではなく電圧分圧比で規定しています。この規格では具体的な測定法も述べられていますので明快です。図2にその測定法の概要を示します。この図で見て判るように、分圧された電圧の比を測定していることになります。

 挿入損失と電圧分圧比は、測定しているパラメータが異なりますので、供試装置の特性によっては、その結果が大きく異なる場合があります。従って、当該規格にて具体的な測定法が述べられていない場合は、取り扱いに注意が必要です。また、AMNの測定器メーカがどちらの方法で測定しているのか? といった情報も有益ですが、一般には公開されていないのが実態です。

 結論の無い解説になりますが、AMNを使用する場合、このような背景と留意点が存在しているということを認識しておくことは、重要なことだと考えます。

■一般的な挿入損失の測定例
図1 一般的な挿入損失の測定例

■AMNの電圧分圧比の測定例
図2 AMNの電圧分圧比の測定例
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