校正雑学 - ロス&ゲイン測定 |
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高周波計測に携わっていると、高周波損失やゲインを測定しなければならないことが良くあります。使っているRFアッテネータの減衰量が正しく維持されているか、ケーブルの高周波減衰特性は変化していないか、アンプのゲインは適切か、等々、様々な場面に遭遇します。
これら、高周波減衰量(ロス)と高周波増幅量(ゲイン)を測るのはさほど難しくはありません。信号発生器と受信機さえあれば簡単に測定できます。図1のa)に示すように、先ず、被測定物を挿入しない状態で、RF信号発生器から無変調正弦波信号を出力し、受信機でそのレベルLREF(dB)を測定します。次に、図1のb)に示すように、被測定物を測定線路中に挿入し、先程と同じ出力レベルにて同様の測定を行います。この時の受信機のレベルをLDUC(dB)とします。被測定物のロスあるいはゲインは次式で簡単に計算できます。結果がプラスの値になればロス、マイナスの値になればゲインということになります。
Loss or Gain (dB) = LREF(dB) - LDUC(dB)
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図1 ロスあるいはゲインの測定配置(減衰器無し) |
図1の同軸線が長い場合、信号発生器と受信機のRFポートの反射係数が大きい場合、被測定物の入出力インピーダンスが安定しない場合等では、測定線路に定在波が発生し、無視できない測定エラーを引き起こす要因になります。測定の繰り返し性や再現性も悪くなるでしょう。これらを出来る限り解消するには、2個の固定減衰器を使います。減衰量は10dB以上のものが必要です。また、どんな固定減衰器でも良いという訳ではありません。定在波を押さえる目的で使用しますので、可能な限り反射係数の少ない高精度なものを用います。
図2に固定減衰器を使用した場合の様子を示します。即ち、両同軸線の被測定物側の先端にそれぞれ固定減衰器を挿入し、被測定物の無い時と有る時で同様の測定を行います。ロスあるいはゲインの求め方は前記した通りです。このように測定することで、測定線路のインピーダンス不整合はかなり押さえられ、繰り返し性と再現性の良い測定結果が得られます。
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図2 ロスあるいはゲインの測定配置(減衰器有り) |
この目的で良く用いられているA社の3種類の固定減衰器のカタログでのVSWR値を下表に示します。いずれも10dBの減衰量を持つ固定減衰器の例です。
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種類 |
コネクタ |
DC-8GHz |
8-12.4GHz |
12.4-18GHz |
18-26.5GHz |
12.4GHzタイプ |
N |
VSWR<1.2 |
VSWR<1.2 |
- |
- |
18GHzタイプ |
N |
VSWR<1.2 |
VSWR<1.3 |
VSWR<1.5 |
- |
26.5GHzタイプ |
3.5mm |
VSWR<1.1 |
VSWR<1.15 |
VSWR<1.25 |
VSWR<1.25 |
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なお、被測定物がアンプなどの場合は、アンプ自体が飽和しないよう、信号発生器の出力レベルの設定には注意が必要です。
図3に同軸線の高周波損失量の測定結果例を示します。図の青い線で示したのが図1の状態、即ち、固定減衰器を用いないで測定した結果です。図の赤い線で示したのが図2の状態、即ち、2個の固定減衰器を用いて測定した結果です。青い線で示す結果では、周波数が高くなるに従ってレベルが動揺しているのがわかります。これは同軸線そのものが持っている特性ではなく、測定系に不整合が発生し、定在波が発生していることを示しています。被測定物である同軸線の両端に10dBの固定減衰器を挿入し、両端のインピーダンスを安定化すれば、測定系には顕著な不整合が発生しないことを示しています。
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図3 同軸線の高周波損失量の測定結果例 |
なお、最近ではネットワークアナライザのSパラメータ測定機能(S21)を使って、より容易にかつ迅速で正確な測定ができるようになっています。但し、この場合、プリアンプ類の校正を行う際は、アンプが飽和しないよう、ネットワークアナライザの出力レベルの設定に注意が必要です。 |
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