校正雑学 - 不整合の計算事例
 図1に事例を示します。受信アンテナ(図の左側)を同軸線を経由してレシーバ(図の右側)に接続した場合の例です。アンテナの根元に何も挿入しない場合を図の上側に、10dBの通過型固定減衰器を挿入した場合を図の下側に示します。この2通りについて、不整合による不確かさがどの程度になるかを考えてみることにします。なお、ここでは便宜上、両者を接続する同軸線そのものの不整合は無視することとします。

図1

 アンテナ、受信機のRF入力ポート、固定減衰器のそれそれのVSWRの限度は、製造者の仕様書から表1の通りであったと仮定します。

装置 VSWR 反射係数
アンテナ 3.0 0.5
受信機 1.5 0.2
固定減衰器 1.2 0.09
表1

 それぞれの機器のVSWR限度値が判れば、反射係数の絶対値|Γ|は式(1)で計算できます。表1には計算した結果を記入しています。

 反射係数の絶対値 |Γ| = (VSWR-1)/(VSWR+1) --- (1)

■10dBの固定減衰器を挿入しない場合

 固定減衰器の無い場合は、アンテナ〜受信機間の不整合のみを考えれば良い。即ち、不整合の標準不確かさは下記の式(2)と式(3)で計算することができます。式の中の√2は、不整合の分布はU字分布を示すことから、標準不確かさを算出する為の除数として採用しているものです。これはISO GUMで定めるタイプBの不確かさ評価法に従ったものです。

|Γant|  : アンテナの反射係数 reflection coefficient
|Γrcv|  : 受信機の反射係数 reflection coefficient

 不整合の標準不確かさ(%) = (|Γant| x |Γrcv| x 100) / √2  --- (2)
 不整合の標準不確かさ(dB) = %の標準不確かさ / 11.5注)   --- (3)

 不整合(%) = (0.5 x 0.2 x 100) / 1.4142 ≒ 7.07 (%)
 不整合(dB) = 7.07%/11.5 ≒ 0.61dB

■10dBの固定減衰器を挿入した場合

 固定減衰器が挿入されている場合は、次の3つのケースを考える必要があります。

 1)アンテナ〜固定減衰器間の不整合
 2)固定減衰器〜受信機間の不整合
 3)アンテナ〜受信機間の不整合

 このうち、3)のケースについては、両者の間に固定減衰器が存在しますので、この固定減衰器の進行方向および逆進行方向の2種類の電圧透過係数を求め、それらを後述する式(5)に代入することになります。

|Γant|  : アンテナの反射係数 reflection coefficient
|Γrcv|  : 受信機の反射係数 reflection coefficient
|S21|  : 固定減衰器の進行方向の電圧透過係数 forward gain
|S12|  : 固定減衰器の逆進行方向の電圧透過係数 backward gain

 まず、10dBの固定減衰器の電圧透過係数は下記の式(4)で計算します。(この固定減衰器は双方向ですので、S21およびS12ともに同じ値になります。)

 電圧透過係数 = 10-(減衰量/20)   --- (4)

  10dBの固定減衰器の電圧透過係数 = 10-(10/20) ≒ 0.316
 (ちなみに3dBの場合は約0.708になります。)

 以上の情報を基に、前述した3通りのケースにおける不整合の標準不確かさを計算します。式(5)と式(6)にそれぞれのケースにおけるパラメータを代入します。ここで2つの機器間に減衰器が挿入されていないケースでは、式(5)のS21とS12は共に1(100%の透過)を代入して計算します。

 不整合の標準不確かさ(%) = |Γant| x |Γrcv| x |S21| x |S12| x 100  --- (5)
 不整合の標準不確かさ(dB) = %の標準不確かさ / 11.5注)  --- (6)

 アンテナ〜減衰器間の不整合U1
     = (0.5 x 0.09 x 1 x 1 x 100) / √2 = 3.18% ≒ 0.28dB
 減衰器〜受信機間の不整合U2
     = (0.09 x 0.20 x 1 x 1 x 100) / √2 = 1.27% ≒ 0.11dB
 アンテナ〜受信機間の不整合U3
     = (0.5 x 0.20 x 0.316 x 0.316 x 100) / √2 = 0.71% ≒ 0.06dB

 以上で3つのケースのそれぞれの標準不確かさの値が求まりました。これらを合成し、全体の標準不確かさを求めると次のようになります。(下記は%値で合成していますが、dB値が小さいのでdB値で合成してもほぼ同様の値が求まります。)

 全体の不整合の標準不確かさU = √(3.182 + 1.272 + 0.712) = 3.49% ≒ 0.30dB

■まとめ

 固定減衰器を挿入しない場合の不整合の標準不確かさは0.61dBでしたが、10dBの減衰器を挿入することで、その標準不確かさの値は0.30dBへと改善されるという結論が得られます。

 補足1)
 %値をdB値に変換するには、係数11.5で除算すればおおよそのdB値が求まりますが、正確に計算する場合は次式で換算することができます。(下記は電圧・電流の場合の例です。電力の場合は20の値が10になります。)
 +dB値 = 20 * LOG ((1+%値/100)/1)
 -dB値 = 20 * LOG ((1-%値/100)/1)

 補足2)
 dB値を%値に変換する際は、次式で行うことができます。
 %値 = (10dB値/20-1)*100
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