校正雑学 - 機器のウォームアップ (1)
オシロスコープ編
 あらためてご説明する程のことでもありませんが、電子部品を搭載した測定器は、通電後、時々刻々とその特性が変化するのが常です。急いでいる場合や、時間に追われている時など、ついつい、ないがしろにしがちなものです。繰り返し性や再現性を期待する場合は、機器の置かれた周囲温度の管理と同時に、機器のウォームアップ時間も測定結果を左右する大切な要素です。弊社のような第三者の校正試験所では、繰り返し性と再現性を確保することは必須の要素でもあります。

 ウォームアップを行わないと機器の特性が安定しない理由ですが、主に機器内部の回路素子の温度特性に依存します。冷却機構のついた測定器の内部温度は、通電後、数時間で温度飽和の状態になるのが一般的です。温度飽和すると、素子の特性が安定になり、繰り返し性の良い測定結果が得られます。

 ここで実例をご紹介します。下記の例は、サンプリング・オシロスコープの入力に安定した正弦波信号を加え、その入力信号の振幅軸表示と時間軸表示を観測した結果です。入力信号の振幅変化は、別の安定した電力計でモニタしています。図の青い線はオシロスコープの時間軸表示を、赤い線は振幅表示を、灰色の線は入力信号の振幅モニタ値をそれぞれ示しています。

 時間軸および振幅軸ともに、通電時の値を基準値として、%で相対変化量を図の縦軸に示しています。図の横軸は通電後の経過時間を「分」で表しています。

 この結果から得られる結論は、振幅軸の表示値が安定には、少なくとも60分ほどのウォームアップ時間が必要になるということです。このウォームアップ時間後も、振幅軸表示は完全には安定していませんが、この部分についてはどの位の時間、オシロを使用するのか等、測定の目的に応じてその変化量を測定の不確かさの値として評価すれば良いでしょう。

 ちなみに、下記のデータを取得した際の室温は、通電時が23.3℃、測定終了時が21.1℃で、2.2℃室温が変化した中での結果です。

 ここで示したのは一例であり、変化の特性は機器によって異なりますので、繰り返し性や再現性が求められる測定を行う場合は、使用する測定器の特性変化の度合いをあらかじめ把握しておくことが肝要です。

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